牛根麓漁港水産流通基盤(特定)整備工事 海上サンドコンパクションパイル工法
■海底に砂の杭を打ち込む特殊船を見に行った
今回は鹿児島県垂水市にある牛根麓漁港へ行ってきました。
なんでも日本に数隻しかないという巨大な特殊船(サンドコンパクション船)が来ているということで、取材前から楽しみにしていたのですが… なんと取材予定日に台風が2度も直撃し、リスケに続くリスケ。
このままでは取材するタイミングがないままサンドコンパクション船が去ってしまう… という危機的状況でしたが、小雨の降る曇天のなか、どうにか取材することができました。
■牛根麓漁港について
前置きはそれくらいにして、まずはじめに今回の工事現場となっている牛根麓漁港について。
牛根麓漁港は、桜島と大隅半島の接点に位置し、水深も深く水温も安定しているためブリの養殖にはもってこいの場所です。
鹿児島県は、全国に流通するブリのシェア3割を占めるほどブリの養殖が盛んなのですが、その中でも牛根麓漁港は県内有数の養殖ブリの流通拠点です。
なお、牛根麓漁港で売られているブリは「ぶり大将」と呼ばれ、その身は脂がのりプリプリ。お取り寄せもできるのでブリ好きな方は是非取り寄せてみてください。(漁港近くの道の駅「たるみず」でも買えます)
近年この「ぶり大将」の生産量は右肩上がりで伸びているそうですが…
写真中央付近の大きな船が今記事の主役ともいえるサンドコンパクション船
地図やこれらの写真を見ていただくとわかる通り、海のすぐそばは崖です。
そのため漁港の作業スペースがあまりありません。
端的に書くと狭いのです。
せっかく生産量が上がっているのにこれでは効率が悪い。
「ならば港を拡張しよう」ということで、牛根麓漁港では近年改築工事が行われています。
そして南生建設は、今回国道220号線横の海岸を埋め立て、漁港の作業スペースを拡張するための海上地盤改良工事を行っています。
海を埋め立てるにあたり、この辺りは地盤が緩いため安直に埋め立ててしまうと地震が起きた際に液状化する可能性が高い。そこで、サンドコンパクション船を使い地盤改良を行っているのです。
なお、サンドコンパクションとは「圧縮した砂」のこと。
この船は圧縮した砂を地中に杭として打ち込むことで地盤を安定させます。
ちなみに、この現場では約120m×30mの工区に深さ7.8m~11.3mの砂杭を420本打つそうです。
■海上サンドコンパクションパイル工法について
それでは、この船は具体的にどういう作業をしているのか説明しましょう。
こちらは施工時の映像です。
映像的にあまり動きはありませんが、作業音の参考にしてください。
現場で貰った資料に図があるので詳しく説明します。
まずは材料である砂をガットバージ船(グラブバケット付きクレーンが装備された作業船)に砂を載せ替えます。ガットバージ船は砂をサンドコンパクション船のグランドホッパーに供給し、ひとまず準備完了。
砂の準備ができたら、船長は杭を打つ位置に船を移動させます(写真左)。
右の写真は船と砂杭を打つ位置を示したものです。船はGPSで常に測位されており船長はこのモニターの数値を見て船を動かします。なお、サンドコンパクション船は作業中に動かないようワイヤーで固定されているので、ワイヤーを巻込み、あるいは巻出すことによって船を動かすのです。
船は波や風の影響を受けるため、正確な位置にピタリと停めるのは至難の業。船の位置がズレていたらその後の作業はすべてズレてしまいます。だからこそ、この作業は船長の腕の見せ所ともいえるでしょう。
船の位置が決まったらいよいよ砂杭を打ち込む作業です。
この船はケーシングパイプが3本あるので、最大で3本同時に施工できます。
モニターにはケーシングパイプの深さや、砂の量が表示されており、オペレーターはモニターを見て手動でパイプの深度や砂の量を調整します。
今回現場は1本の砂杭を打つのにかかる時間は20~30分程度。オペレーターの指加減で砂杭の仕上がり具合も変わってくるので、作業中オペレーターは気が抜けません。1本砂杭を打ち終えたら船の移動などで少し時間があくのでその間にリラックスするようです。
なお、今回の現場では1日に約40本の砂杭を打ち込んだそうです。
以下は施工時に行っている作業です。
これらの動作をわかりやすくまとめた動画を船主である不動テトラが作成していたので貼っておきます。
今回の現場とは船が違うため多少異なる部分はあるかもしれませんが、工事の流れや砂杭をどのように海底に打ち込んでいるのかわかると思います。
■サンドコンパクション船の資料
こちらは今回の工事で使われているサンドコンパクション船「F-11」号の図面。
櫓(ヤグラ)の高さは55m。船に15階建てビルが乗っているようなものですね。
今回は工事中の姿しか見れなかったのですが、いつか航海中の姿も見てみたいです。(タグボートに牽引され移動するようです)
こちらはサンドコンパクション船の設備名称。
この図には載っていませんが、操舵室の下には作業員の宿舎や食堂があります。
工事は始まってしまえば最低でも数週間、長い時は数か月もかかります。船に寝泊まりするのが作業員にとっても一番負担が少ないのでしょう。
船の上はある種の閉鎖空間。何か月も同じメンバーで過ごすとなると… 技術の他に人間性もきっと重要。チームワークが大切な仕事といえますね。
↑はF-11号ではありませんが、おなじ不動テトラのサンドコンパクション船「ぱいおにあ第30フドウ丸」の紹介動画です。
3分40秒あたりに居住スペースについての紹介があります。参考までに。
■まとめにかえて(F-11号写真集)
今回はじめてサンドコンパクション船を目の当たりにしたのですが、大きさもさることながら音の迫力もすごかったです。私が撮影している時も、一度は車で通り過ぎたあと引き返してきて写真を撮っている人も多くいました。日本に数隻しかないこの船が、誰でも撮影もしやすい場所で作業をしていることはそう多くはないでしょう。今回は船にも乗せてもらえてとてもレアな体験でした。
また、2度の大きな台風に作業を妨害されながらも(工事が1週間近く止まったはず)、期間中に工事をやり遂げたオペレーターの方々のテクニックも素晴らしいです。まさに職人!
なお撮影から3日後、サンドコンパクション船は牛根麓漁港を離れ、次の現場へと向かったそうです。引く手あまたの売れっ子船ですね。
今回の現場はひとまず海底の地盤改良が終わり、次は捨石やブロックなどで埋め立てです。
サンドコンパクション船はもういませんが、今後も国道220号を通る際は工事の進捗を気にしたいと思います。
最後に、WEB上にカッコいいサンドコンパクション船の写真があまりないので、記事で使わなかった写真も掲載します。時々雨の降る天気だったため重々しい雲に阻まれ「サンドコンパクション船と桜島」を綺麗に撮れなかったのは少々心残りではありますが… カラカラに乾いた青空での撮影より船の重厚感を出せたのではないかと自負しています。でもいつか、晴れた日にも撮影したいものです(笑)
☆参考リンク
☆参考資料
南生建設作成工事概要書
不動テトラ工事見学会資料