桜島港施設整備工事
2019年8月1日。晴れ。今回訪れたのは鹿児島の象徴ともいえる「桜島」の玄関口「桜島港」。
鹿児島の方なら一度は利用したことがあるであろうその港は、2018年まで旧ターミナル(1969年竣工)が使われてきたが、徐々に老朽化が顕著になり2016年から建て替えなどの整備が進んできた。
南生建設は桜島港の船を係留する場所(バース)の整備工事を担当しており、この日は南生建設所有の起重機船による「吊り上げもあるかも?」ということだったので取材に出向いた。
※当日、工程は変更になってしまった。
■今回の現場は24時間動き続ける桜島港
桜島港は24時昼夜を問わず1日65便のフェリーが入出航している。
今回の工事の大変な所は「フェリーや、利用客の利便性を損なうことなく工事を進めること」とのこと。
なんせ桜島フェリーは絶えず動いている。そのため常に”一般の人”が近くにいることになり、気が抜けない。
また、既存施設の更新ということもあり、物を置く場所(ヤード)の確保も大変だったそうだ。
■クレーン車で数十cmの隙間をくぐらせ架橋する
この日行われた工事は、クレーン車を使ってフェリーへとつながる車道橋(以下鋼橋)の架橋だ。
トラックに載せられ現場付近で待機していた鋼橋が設置場所の横に着くと、鳶の方々がひょいっと飛び乗り、手慣れた手つきで鋼橋とクレーンを金具で繋いでいく。
そして、クレーンが動きあっという間に鋼橋を車道の上まで動かした。
流れがスムーズだったので「この工程はものの数分では終了か?」と思ったところ… そうではなかった。
ここには既に車道が作られておりガードレールも設置されている。そして、鋼橋を通す場所の上には歩道橋がありフェリー利用客がたえず通る。
つまり、この鋼橋を設置するためには、ガードレールと使用中の歩道橋の間を通していかなければならないのだ。
この鋼橋は長さ16.84m、重さ約14tもあるため、万が一ぶつけてしまったら、ぶつけた方も、ぶつかった方もただではすまない。しかし、歩道橋の下に鋼橋を通す際の隙間は上下ともに数十cmしかない。
幸いこの日は風も穏やかだったため揺れは少なかったが、ちょっとした判断ミスも許されない。
万が一が起きぬよう、入念な作戦会議が行われ、鋼橋の上には隙間を目視する人が上がり、地上にはロープで揺れと高さを制御する人が位置についた。
大勢の職人さんが念入りにロープをコントロールし、クレーンもその様子と飛び交う声を確認しながらゆっくり鋼橋を前に進める。まさにチームワークだ。
歩道橋の下を通った鋼橋。
この時点でもまだ歩道橋と鋼橋との隙間はわずか。もし職人さんが握っているロープを手放したら重心の関係で先が浮き上がり歩道橋にぶつかってしまう。
こうして念入りに作業を続けること20分程度。ようやく、入った!
慎重な作業の結果、鋼橋をどこにぶつけることなく歩道橋の下を通し対岸まで無事架橋したのだ。
あとは素早くボルトで留め固定していく。
こちらは反対側。
この後も車道にするためグレーチングを敷く作業などは続くのだろうが、険しい顔で指示を出していた職人さんたちもひとまずホッとしたようで安堵の表情を浮かべていた。
■まるでひとつのドラマを見るようだった
鋼橋に金具を付けてから設置まで、全体で40分くらいの作業だったが、それはまるでひとつのドラマを見るようだった。車道に鋼橋を上げてから上下の隙間を何度となく確認する職人さんたちの表情は真剣そのもの。大きな声を出し合い、お互いの状態を確認し作業を進めていく。そこには職人さんたちの「絶対にぶつけない」という意地と技術が詰まっており、架橋完了時には涙までは流さないが見ていて何かこみ上げるものがあった。
おそらく土木の現場には毎日大なり小なりドラマチックな場面が起きているだろうが、一般供用がはじまると使う立場としてはそんなドラマを知る術はない。現場の当人たちも毎日の事だからすぐに忘れてしまうだろう。だからこそ、今回一部始終を見届け「名もなきエピソード」をブログに記録できて良かった。
このまま工事が順調に進めば新しいバースは10月中旬に供用が開始される。
私は今後、桜島港を使う際は毎回今回の架橋を思い出すだろうが、もしこのブログを読んだ方も桜島港を使う際にこの時のエピソードを思い出すような事があれば、私も少しだけ嬉しい。
■南生建設の起重機船「第88南生丸」
こちらが南生建設が所有している155t吊りの起重機船「第88南生丸」。
鹿児島という場所柄、海洋工事も多く、今回のような港湾の建設工事のほか、消波ブロックの設置などにも利用しているそうだ。別の機会に活躍しているところを見に行きたい。
今回の現場