奥之宇都線宇都トンネル

梅雨明け宣言があった7月24日、姶良市蒲生町と鹿児島市東佐多町を結ぶ「奥之宇都線宇都トンネル」を訪れた。前日までの梅雨特有のぐずついた天気とはうって変わって、青空と積乱雲の出る夏の陽気。

現場は午前8時から作業開始。私は9時に訪れたが、その頃には気温はもう30℃近くまで上がっていた。

蒲生高校近くの詰所から現場までは車で3分程度。

農地も広がる住宅街から一転、両側が木と山しかない道へと入っていく。


 

写真下部に見える現場が今回訪れた「宇都(うと)トンネル」だ。

トンネルの長さは272m。そのうち姶良側の139mが南生建設の担当工区になる(鹿児島側は他業者が担当し、両側から掘り進めたそうだ)。

 

現場の右側には、現トンネルとして昭和51年3月に竣工した「宇都隧道(うとずいどう)」が通っている。

矢板工法で作られたこのトンネルは供用から43年が経ち、ひび割れや出水などの老朽化が目立つようになってきた。また、この道は蒲生町方面から東佐多町や姶良ICに向かうには都合が良く、交通量も多い。しかし、隧道は狭く大きな車だと離合も難しい。

「宇都トンネル」は、「宇都隧道」の老朽化対策・安全対策として新たに作られることになったのだ。

 

全くの余談ではあるが、車がすれ違うことを意味する「離合(りごう)」という言葉、九州では日常的に使われるが、九州以外ではあまり使われておらず、関西より東の地域ではその言葉自体知らない人も多い。関東で生まれ育った私も九州に来てはじめて「離合」を聞き、最初は意味がわからなかった者の一人だ。

 

余談はさておき…


 

この日はトンネルの入口(坑門)を作る作業をしていた。

足場を組み、木枠を造り、そこにコンクリートを流し込むことで坑門を作るのだ。

コンクリートは鮮度が命。時間経過によって状態が変わっていく。生コンクリートという言葉があるように、コンクリートはナマモノといってもいいだろう。

 

立っているだけでもポタポタと汗がしたたる暑い日だったが、現場の人々は工場から届いたコンクリートの状態が悪くならないよう、てきぱきと仕事をこなしていた。

 


現場を真上から見るとこんな感じ。

 


太いホースでコンクリートを木枠の中に流し込んでいる。コンクリートを供給するマシンの形からも映画『シン・ゴジラ』のクライマックスシーンを一人で思い出してしまった。

手前にいる人はバイブレーターを使いコンクリート内に含まれた空気を追い出し、コンクリート内の状態を均等にしている。こうしないとコンクリートに気泡が入り品質低下につながってしまう。

 

ここでまた余談ではあるが、現場所長さんに

「こういった作業は雨の降る日でも行うのですか?」と訊ねてみた。

水分量を規定値にしているコンクリートに雨(水分)が入ってしまうと品質が変わってしまうからだ。

すると、「一時的な小雨なら足場に防水シートをかぶせて対処するが、基本雨の予報なら作業を延期する」とのことだった。

梅雨時期や夏は突発的な雨も降る。作業中でも雨が降ったらサッとシートをかける準備ができているそうだ。何事もなく作業が進むのが一番だが、突発的な状況にも対応できるようあらかじめ準備のうえ作業をしているのだ。

 


 

せっかくなのでトンネル内部も見せていただいた。

作業用ライトに照らされた防水シートは鈍く光りなんともなまめかしい。

このトンネルはNATM(ナトム)という工法(Wikipedia:新オーストラリアトンネル工法)で掘られている。発破掘削後、地盤を安定させるボルトを打ち込み、出水対策の防水シートを被せ、その上に全体を支えるためのワイヤー(鋼製支保工)を張り、それらをコンクリートで固めることでこのトンネルは完成する。

トンネル自体は貫通しているので、今後の作業は仕上げと言ってもいい。

完成予定は10月末予定とのこと。あともう少し!

 

いやしかし、これからの3か月が一番暑い時期だ。

作業している方たちはケガ防止のため、気温に関わらず長袖長ズボンを着用している。その上、視認性を上げるため反射ベストや落下防止のハーネスなども着用している。私は今回午前中の3時間ほど現場にいただけで全身汗でびしょびしょになってしまったが、作業している方たちは1日動きっぱなしでもっと暑いだろう。

所長さんに「何か暑さ対策はあるのですか?」と訊ねたところ、「実はこの作業着、ファンが付いているんですよ」と教えてくれた。これは服に扇風機が付いているようなもので着ていると風通しがよく、それなりに涼しいそうだ(一度着せてもらえばよかった)。

 

取材を終え、帰り際には塩タブレットをいただいた。これは塩の塊そのものではなく、グレープフルーツのような味で食べやすい。

夏場、大量の汗をかくと体内の塩分も汗と一緒に流出し、すみやかに対処しないと熱中症になってしまう。そのため作業時は適宜水分と塩分を補給しながら作業にあたっているそうだ。この現場に限らず、全国でインフラ整備にあたっている方たちは、この時期、熱中症とも戦いながら作業をしている。

 

私は普段なにかを気にすることもなく整備された道を使い、様々な場所に行く。そして、整備された道を通して様々な場所から集められた商品を買い生活している。そういったなにげない「便利」は、インフラを支える人々の汗によって作られている。

忘れがちな事だが、こういう現場を訪れ、一時的であれ同じ環境に身を置くことでそういったことを思い出す。作業に当たっている方々には本当に頭が下がる。

事故のないよう工事を全うして欲しい。現場を訪れるたびにそう思う。

 

どうかご安全に。

 

 

写真・文責:小島健一

現場管理:南生建設

 

現場位置

PHOTO LIBRARY現場レポート by小島健一
見学家小島健一が訪れた、鹿児島県の建設会社「南生建設」の手掛ける現場のレポートです。月に1度くらいの頻度で更新予定。