大規模滑動防止事業(熊本県益城町杉堂1地区)
■多くの人々の日常を奪った大震災
今回訪れた現場は、2016年4月に起きた熊本大震災で被災してしまった益城町杉堂1地区です。
益城町といえば、国内で唯一震度7を2度も記録した地域であり震災当時の被害は甚大。10,584棟の住宅が損壊し、16,050人の避難者が出たといわれています。
震災からまだ日が浅いこともあり、九州以外にお住まいの方でもその凄惨な状況は記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
震災から4年が経ち、町は徐々に復興しています。しかし、いまだ工事の済んでいない地域も多々あり、鹿児島に本社のある南生建設もそういう地域の復興のお手伝いをしているということで、今回取材に訪れました。
まずは現場(益城町杉堂1地区)の写真をご覧ください。
左)熊本大震災前 右)南生建設が現場に入る直前
どちらもGoogle Earthより
震災直後(2016年5月)の様子はGoogleストリートビューに記録されています。
本題から少し脱線しますが、こういう状況をきちんと記録し、誰でもアクセスできる状態にしているGoogleはやはりすごいですね。
震災前の写真を見ていただくと、この地区にはたくさんの家が立ち並んでいたことがわかります。
それが震災によって家はことごとく崩壊してしまい、その後撤去され、南生建設が現場入りした時にはほとんどの宅地が更地になっていたそうです。
今回、南生建設はこの地域がふたたび震災に見舞われても宅地がずれて崩壊することのないよう、強固な擁壁(ようへき)を作る宅地復旧の工事を行っています。(擁壁とは、崖などが崩れないように施す壁です)
南生建設が撮影した着工前(2019年3月1日)と現在(2020年10月29日)の写真があるのでこちらもご覧ください。着工時と比べて多くの擁壁が作られ、それに伴い新しい住宅も建てられていることがわかります。
こちらは現在(2020年10月29日)の空撮動画です。
■信頼関係で築く擁壁
現場所長の臼杵さんの話によると、この現場の工事は技術的にはあまり難しい工事ではないそうです。
都市のように狭く限られた空間で工事をするわけでもなく、また最新の技術を積極的に導入する工事でもない。工事としての手順を丁寧にこなしていけば復旧も進む。そういう工事です。技術的には。
ただ、この現場は計画段階から宅地の主(地権者)と膝を突き合わせどのように工事を進めていくかを検討し、できるだけ地権者さんの意向に沿うよう工事を進めているそうです。
だから工事に取り掛かる時は「~さんのお宅の擁壁を施工する」と、地権者さんの顔を思い浮かべながら工事をしているそうです。(時には地権者さんに見守られながら工事をすることもあります)
普通の土木工事は道路なり橋なり大勢の市民が使う反面、利用者ひとりひとりの顔は思い浮かべづらいものです。しかし、この工事は地権者さんの顔を思い浮かべながら工事をするため、いつも以上に張り切ってしまうそうです。
地域の方々といつも挨拶を交わし、時には差し入れをもらうこともある。そんな時には「頑張らなくちゃ」と改めて自分に喝をいれる。そういう人と人の信頼関係がこの現場にはあるのです。
擁壁づくりはあくまで復興の第一歩。
この工事が終わってはじめて家を建てて人が住めるようになります。
いまもまだ仮設住宅にお住いの地権者さんもいるそうです。だからこそ「できるかぎり早く丁寧に、間違いがないよう現場関係者全員が一丸となって仕事をしている。1つの宅地が完成した時、地権者さんから 「立派な擁壁が出来たね。本当にありがとう」 などの感謝の言葉を頂ける事が1番のやりがいです」と臼杵さんは語ってくれました。
■ひとりはみんなのために みんなはひとりのために
現場を取材していてふと頭に浮かんだ言葉があります。
「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」という言葉です。
現場で働く人たちはチームで動いています。会社としてのチーム、工事全体としてのチーム、いずれにせよチームとして復旧工事を完遂できるよう、ひとりひとりが頑張って働いています。
工事内容によってつど職人さんたちは変わりますが、この現場では1日平均30人ほどの職人さんたちが働いています。1か月ののべ人数は900人。約2年半の工期では、日々の増減はあれ、のべ2万人程度の職人さんが工事に携わることになります。
その人たち全員が、地権者さんが以前と同じようにこの土地で暮らせることを願って、全力で作業をしているのです。
言葉本来の意味とは少し違うかもしれませんが、私はこの現場をみて「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」という言葉が頭に浮かんだのです。
この現場で働く南生建設の皆様
とてもいい笑顔です。
この現場では南生建設の方々に限らず、働く職人さんたちもよく笑う明るい雰囲気がありました。
復興に携わる人たちがギスギスしていたら、それこそ気分的に嫌ですよね。
笑顔の人たちが施工している工事。人間味があっていいじゃないですか。
この現場の工期は来年3月末まで。途中で新型コロナウイルスが流行して番狂わせもあったそうですが、笑顔を絶やさず、どうか最後までご安全に!
・参考資料
震度7×2からの復興(2019.3.18時点版)(PDF:4.39メガバイト)
平成28年熊本地震 益城町震災記録誌(本編)(PDF:13.81メガバイト)
現場の位置